学生の頃からよく読んでいた宮本輝さんの小説です。
たまたま最近本屋で見つけた新刊 「三十光年の星たち」
そのタイトルと箇条書きのあらすじを見て、
ひっかかるものが強く手にとってみました。
文庫本で上下巻となっていますが、
思った以上に一気に読みきってしまいました。
それだけ読みやすくもあり、内容に引き込まれていくものもあり。
あらすじは、
職も恋人も失い何のとりえもない普通の30歳男。
金貸しから借りた借金を返済するため、
とある提案から行動を共にするようになる。
若者の再起と生きることの本当の意味を、
圧倒的な感動とともに紡ぎ出す傑作長編。
金貸しといってもちょっと特殊なので、
その業界や裏の世界の物語ではなく、
ごくごくありそうな普通の人々の生活が描かれています。
いろんな世界の師と弟子の関係、人生訓、
修行や鍛錬を積むということ、
主人公は30歳なんですが、主要人物に75歳など諸先輩も多く、
その語りや言葉、考え方がすごく響く内容でした。
30年という時間の尺度がこの小説のキーポイントになっています。
印象的な言葉を抜粋します。
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「十年でやっと階段の前に立てるんだ。二十年でその階段の三分の一のところまでのぼれる。三十年で階段をのぼり切る。そして、いいか、のぼり切ったところから、おまえの人生の本当の勝負が始まるんだ。その本当の勝負のための、これからの三十年間なんだ。そのことを忘れるんじゃないぞ。」
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この言葉は75歳の金貸しから、主人公の30歳に向けられたものです。
(このふたりは物語のなかでの師弟関係にあたります)
ということは、本当の勝負は60歳から、
これから30年がその鍛錬の時期、
ということになります。
なるほどなあ、と。
ほかにもこんなのもあります。
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どの分野にも若くして天才と称される人がいる。しかし、そのうちの何人が、才能をさらに磨いて大成できたか。自らの才能を超えた大仕事を、年齢とともに成し遂げていく人間を天才というのだ。
「三十年間」に耐えられなかったからだ。「三十年後」というものに焦点を定めれなかったからだといってもいいし、「三十年間」を途中でどこかで投げ捨てて、うぬぼれていったと言い換えてもいい。
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とまあ、あきらかに若い人とは時間の尺度が違うわけです。
それは様々なことを経験した年齢だからこそ
言えることなのかもしれませんし、
長い時間軸で物事を俯瞰的に見ることができるのかもしれません。
それを若いうちに習得しろというのはもちろん無理なことです。
若くして悟りでもしないかぎり。
でも、そういった人生観を教えてもらうこと、
予め教訓として持っておくこと、
それをふまえて自分のこれからの人生を歩んでいくことは、
大きく違うだろうと思います。
だからこそ、こういった師弟関係やその環境が、うらやましくもあり、
これまであまり言われたことのない言葉たちを聞けた気がして、
うれしくもありました。
植物学者、柔道家、料理人などあらゆる世界の師匠が登場し、
そして師弟関係の様相やその環境での言葉たちが胸を打ちます。
主人公と同世代の今、この本を手に取れてよかったなと思います。
この「三十光年の星たち/宮本輝」のレビューのなかには、
『あと10年20年前にこの本に出会えていたら変わっていたかもしれない』という感想を書かれている方も多かったです。
そしてそんなことを言われるどの方も
『いや、人生に遅すぎるということはない、これからの三十年を・・・』と結んでいます。
最後に紹介します。
75歳の金貸しが主人公に説く「自分を磨く方法」は金言です。
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「働いて働いて働き抜くんだ。これ以上は働けないってところまでだ。もうひとつある。自分にものを教えてくれる人に、叱られつづけるんだ。これ以上叱られたら、自分はどうかなってしまうっていうくらい。このふたつのうちのどっちかを徹してやり抜いたら、人間は変われるんだ。悪く変わるのは簡単だが、良く変わるのはじつに難しい。だけど、このふたつのうちのどちらかをやれば、人間は良く変われる。だまされたと思って、やってごらん。」
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