「私、K介のお嫁さんになりたい」
ある日突然、まっすぐに言われた。
「うん、わかった」と二つ返事したK介。
Y子は目を大きくして喜んだ。
K介は結婚というものがどういうことなのか
わかっているんだろうか。
Y子のことは好きだし、好きな人同士が結婚するんだし、
じゃあいいかくらいにしか思っていない。
その日から妙にY子の目が鋭い。
他の子と話そうものなら、「何話してたの?」と執拗に聞いてくる。
他の子と遊ぼうものなら、もうもう顔をふくらませ憤慨している。
それが大人数のグループでの遊びであっても。
K介としては、みんな大切だし、みんな楽しい。
それをY子に言うと「だから何?」と一蹴されてしまう。
「私たち結婚の約束したよね?」といつものお札(ふだ)言葉がつづく。
こんなことならそんな契り交わさなければよかった、と
少し後悔しているK介。
でも好きな気持ちは変わらないんだけどなあ、ともK介。
そんな些細なケンカの絶えない二人に。
K介はY子に呼び出された。
「私やっぱりK介とは結婚しない」
ある日突然、これまたまっすぐに。
「うん、わかった」と言うしかないK介。
悲しいともうれしいともわからないこの感情。
あまりの簡単なそっけない即答に、ある意味心外だったのか、
Y子は顔をふくらませたまま走っていった。
一気にY子の後ろ姿は見えなくなる。
そしてK介だけが廊下に一人残された。
その時、チャイムが鳴った。
「下校の時間です。1-2年生はお友達と一緒にみんなで帰りましょう。」
帰り道。
同じ下校グループにK介とY子はいた。
Y子が突然K介のところに近寄ってきて、
帽子の上に葉っぱを乗せてきた。
指をさして笑っている。
K介も負けじと、
道端のありったけの葉っぱたちを小さい両手ですくって、
こぼれないように胸で抱え、駆けていき、ちょっと背伸びをして、
Y子の頭の上からめいっぱい降らせた。
赤や黄色のきれいな彩り、紅葉のシャワー。
二人ともけらけらと笑っている。
明日も明後日も、こんなふうに毎日が楽しかったらいいな。
K介は頭と半ズボンの下しか見えないくらいの、
大きなランドセルをリズミカルに揺らしながら、そう思っている。
Y子もきっとそう思っている。
KYな好き心、KYなお年頃、いつの世代も。