終わりのスイッチ

「もう終わりにしよう」
ぽつりと彼は言った。

このスイッチを押してしまえばすべてが終わる。
これまでの苦しみからも解放され、重い荷物もなくなる。

すべてをやり直せる。
記憶もリセットされる。
思い残すことも思い出すことも思い苦しむことも、ない。

スリギリはそのスイッチを押した。
そこに迷いがあったのか、躊躇したのかは彼にしかわからない。

キトリアはそのスイッチを押さなかった。
散々悩んだあげく結局押さなかった。
手をぐっと握りしめたまま彼の腕は小刻みに震えている。

時は過ぎ。

スリギリは新しい日々が始まっていた。
あの苦しみからも重い荷物からも解き放たれた自由。
過去なんて振り返る必要もない満ち溢れた今。
こんなに充実した日々は人生初だ!と胸の鼓動を抑えられない。

キトリアは相変わらず苦しみ迷い重い日々が続いていた。
それでも歩き続けるしかない、と言い聞かせる。
あの時あのスイッチを押せばよかったかな、と後悔しているかどうか、
それは彼にしかわからない。

時はさらに過ぎ。

スリギリはスイッチを探していた。
そう、あの「終わりのスイッチ」を。
苦しんでいた、悩み疲れ果ててしまっている。
なんとかすべてを終わらせてリセットできないか。

あの時よりも状況はさらに悪いのではないか。
本人はそのことはわかっていない。
だって記憶もリセットされたのだから、あの時に。

キトリアはというと。
大きくは好転していない、一発逆転とまではいかない。
けれども、少しずつ苦しみも和らぎ、荷物も軽くなっている。
なによりも今ひとすじの光が射しこんでいるようにも感じている。

まだまだ道のりは長い。
それでも歩き続けるしかない、と言い聞かせる。
あの時と同じ台詞を口にしている。

同じ台詞を口にしながらも、あの時ほどその口調は重くない。
そこには秘めたる決意と爽やかさすら感じられる。
彼自身がそのことに気づいているかどうか、それはわからない。

苦しみもがきながらも、重い荷物を背負いながらも、
それでも歩き続けてきたことに意味があったのかもしれない。
過去を振り返ってみて彼は初めてそんな心境にもなる。
そして目の前をまた一歩一歩、歩いていく。

スリギリとキトリアは同じ時代を生きた。
けれども二人が出会うことはなかった。
「終わりのスイッチ」がある時代を生きながらも
それぞれの生き方を彼らは知らない。

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すいません。
しょうもない空想、架空の物語に付き合わせてしまいました。
物書きのまね事です。

まっ、、、そういうことだと思うんですよね。

この物語の登場人物はスリギリ キトリア。
逆から読むとアリトキ リギリス。

– 完 –